診療案内

Medical guidance

小児の胃炎・消化性潰瘍HelicobacterPylori感染症

小児科医 ( 副院長 ) : 中田成慶

2005年日本小児栄養消化器肝臓学会は、「小児ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断、治療、及び管理指針(以下、指針)」を発表し、その全文は小児科学会雑誌109巻10号1297~1300(2005)に掲載されています。
2007年4月の大阪小児科学会で、「訴えから診断と治療までに6年を要した慢性腹痛の兄弟例―ヘリコバクター・ピロリ感染に伴う十二指腸潰瘍」の報告がありました。

ピロリ菌感染の診断が、簡単に利用できるようになっている現状で、上腹部の訴えをもつ子どもに対して、ピロリ菌感染症を疑うことの重要性が指摘されました。

最近の症例

2006年5月 8歳 男

2週間上腹部痛が続く。
父親がピロリ菌陽性の家族歴あり。

尿素呼気試験実施、3.7%(2.5%以下が陰性)で、軽度の陽性を示す。

その後、腹痛が軽減したため、胃カメラや除菌療法は行わず。

2007年3月 8歳 女

1ヶ月以上、吐気、上腹部痛、午後になると頭がボーとする、学校にいけないなどの症状が続くようになる。OD(起立性調節障害)検査で陽性、尿素呼気試験40.1%の陽性、ODの可能性も高いと考え、ピロリ菌陽性結果を添えて、ODの専門外来を持つ大学病院へ紹介。

疫 学

欧米の先進国では小児の抗体保有率は低く、おおよそ年齢に比例して増加し、60歳までに約50%が陽性になります。これに対し、発展途上国では陽性率は小児期から高く、10歳までに40~70%と報告されています。
わが国では0~9歳まで5.3%、10~19歳までに18.6%、10~29歳までに25%と、およそ1年間に1%の割合で増加(ここまでは先進国型)、40歳からは急に陽性率が増加し、その後70~80%に達します(年齢が高いと発展途上国型)。

日本での感染経路は8割が家族感染(母から7割、父から1割)、家族外感染は2割とされています。

細菌の生物学的特徴

H.Pyloriは、グラム陰性らせん菌で、複数の鞭毛を持つ微好気性菌です。胃内の強力な酸から逃れるために、よく発達した鞭毛を回転させ、酸度が中性になっている胃粘膜の下層に侵入し胃粘膜上皮細胞や細胞間隙又は粘液内に生息します。菌は強いウレアーゼ活性をもち、尿素からCO2とアンモニアを産生し、産生されたアンモニアが胃酸を中和します。
1983年オーストラリアのWarrenとMarshalによって発見され、この発見で、2005年ノーベル賞に輝きました。

臨 床 像

胃炎(急性胃粘膜病変EGML)、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、など、胃、十二指腸病変が主なものですが、胃・十二指腸以外の病変として、慢性血小板減少性紫斑病や、鉄欠乏性貧血の原因の一つとなっていることが明らかにされています。
これらの疾患の診断がなされた場合には、ピロリ菌検査→原疾患の治療とともにピロリ菌の除菌療法が適用となります。

わが国では、家族感染が多いことから、家族歴をもつ場合、上記の訴えや診断をうけたら、ピロリ菌感染の検査を行うことが必要になります。

検査法

侵襲的方法としては、検鏡による組織検査、ウレアーゼ試験、培養法がありますが、これらは内視鏡を検査の際に実施されるものです。
非侵襲的な方法としては、尿素呼気試験、便中抗原検査、抗体検査(血液、尿)があります。この中で、尿素呼気試験が最も簡便で、信頼度が高いと評価されています。

尿素呼気テスト(UBT)

経口的に13C尿素を服用し、胃内にピロリ菌が存在すれば尿素がアンモニアとCO2に分解され、CO2は呼気に排出される。その呼気をバッグに採取し、検査前の呼気と比較することで、診断する。
尿素製剤は、ユービット又はピロニックの錠剤又は粉末で、いずれも100mgです。投与量は12歳未満75mg(100mgを100mlの水に溶解して75ml)、12歳以上は100mgを目安とします。口腔内のウレアーゼ産生菌による偽陽性を避けるために、尿素製剤服用前にうがいを行います。

除菌治療の成否判定にも利用されます。

除菌療法

「指針」では、first-line治療は、プロトンポンプ阻害剤(ランソプラゾール又はオメプラゾール)、アモキシシリンおよびクラリスロマイシンによる3剤併用療法(PAC療法)で、治療期間は7日間が推奨されています。
不成功例や耐性菌の場合は、クラリスロマイシン(最近では30~40%が耐性化)に代えて、メトロニダゾールを使用したり、テトラサイクリンや、ビスマスの使用、14日間投与などで除菌成績が改善したとの報告があります。

「指針」では、再感染を考慮し、5歳以上の小児が対象とされます。
対象疾患として、①胃・十二指腸潰瘍 ②慢性胃炎 ③胃MALT(mucosa-assocuated lymphoid tissue)リンパ腫 ④蛋白漏出性胃炎 ⑤鉄欠乏性貧血 ⑥慢性ITP が対象とされます。(鉄欠乏性貧血とITPへの除菌療法は現段階では、保険適用外です。)
現時点では、無症状の陽性者は除菌治療の対象とはされていませんが、癌化の危険性など長期の合併症との関係で、将来的には何らかのinterventionが行われるようになるかもしれません。

雑誌「小児内科」2007年3月号はH. Pylori感染症の特集を組んでいますが、巻頭で、清水俊明氏(順天堂大学小児科)は、「胃の調子が悪い小児科医にも、H.Pyloriの感染診断や除菌をお勧めする。」と文章を結んでおられます。注意したいものです。